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有料ネット配信でスポーツは「閉じられた文化」になるのか?

ワールドカップのアジア最終予選で、サッカー日本代表が7大会連続の本大会出場を決めました。
しかし、テレビの地上波では放送されず、インターネット有料配信「DAZN(ダゾーン)」の会員にならないと試合を視聴することができませんでした。

メディアの形態がテレビからインターネットへ変化する中、スポーツは「閉じられた文化」となっていくのでしょうか。

アジアでの放送権を独占

2022年のワールドカップは11~12月にカタールで開催されます。
出場国はアジア最終予選で決まりますが、その全試合の放送権を一手に握ったのがDAZN、2016年からサービスを開始した国際的なスポーツ専門のインターネット有料配信メディアです。

今回の予選は、テレビ朝日が国内での日本戦のみ、地上波でのテレビの放送権を獲得しました。
しかし、日本代表の本大会出場は、3月24日にシドニーで行われたオーストラリア戦で決定。
ファンはその瞬間を地上波で見ることができず、「ドーハの悲劇」や「ジョホールバルの歓喜」のような興奮はありませんでした。
テレビ朝日が中継した同29日の埼玉スタジアムでのベトナム戦は予選の最終戦でしたが結果も引き分けで、盛り上がりに欠ける試合となりました。

ラジオでは唯一ニッポン放送が、オーストラリア戦を放送しましたが、電波の届く範囲でしか聴くことができず、スマートフォンの「radiko(ラジコ)」でもエリア内に限定されました。

DAZNは、プロ野球(広島の主催試合を除く)、F1、テニス、バスケットボール、格闘技などさまざまなスポーツを幅広く放送しています。
Jリーグとは2028年までの12年間で総額2239億円の巨額放送権契約を結び、アジア・サッカー連盟とも2028年までの長期契約を交わしています。
ワールドカップ予選だけでなく、アジアカップ、アジアチャンピオンズリーグなど計14大会の権利を握り、アジアでの放送権を独占しています。

日本でのDAZN一般会員向け月額料金は3000円(税込)です。
2月下旬までは月額1925円でしたが、1000円以上も値上げとなりました。
巨額の資金がなければ、多種多様なスポーツの放送権を買うことができません。
その影響は一般視聴者にもでてきます。

ワールドカップ本大会を「ABEMA」が無料放送

ワールドカップカタール大会の日本での全64試合の放送権は「AbemaTV」が獲得し、DAZNの有料放送とはなりませんでした。
「AbemaTV」は、サイバーエージェントとテレビ朝日などが出資するインターネットテレビ会社で、同社が運営する「ABEMA」で無料放送が決定しました。
NHKでも開幕戦、決勝戦を含む21試合が地上波、BSなどで放送されます。
フジテレビとテレビ朝日も各10試合を地上波で放送しますが、地上波のテレビ局が全試合の放送権を獲得することはできませんでした。

ワールドカップの放送権料は高騰を続けてきました。
カタール大会の日本全体での放送権料は公表されていませんが、「180億円近く」(2月4日付、スポーツニッポン)という報道もあります。
日本が初めて出場した1998年フランス大会の時、NHKが国際サッカー連盟に支払ったのは約6億円なのでケタ違いに膨らんでいるといえます。

これまで五輪とW杯の日本国内の放送権は、NHKと民放合同の「ジャパン・コンソーシアム」で交渉されてきました。
しかし、今回は日本テレビ、TBSテレビ、テレビ東京が枠組みから外れました。
放送権料の高騰により、ワールドカップは費用対効果の面で、採算のとれにくい巨大コンテンツとなってきたのでしょうか。

AbemaTVの藤田晋社長は「アベマとしては過去最大の投資となります」とツイッターに投稿しました。
権利の取得額は今のところ明らかにされていませんが、無料放送で利益を得るのは難しく、「ABEMA」を世間に広く周知させるための思い切った先行投資なのでしょう。

無料視聴の法整備は必要か

日本サッカー協会の田嶋幸三会長は、ワールドカップ出場が決まった後、ワールドカップやその予選における日本代表の試合を、無料で視聴できるよう法整備を求める考えを示し、「国にも動いていただかないと」と発言しました。

1990年代以降、テレビは地上波だけでなくBSやCS放送が加わり、ケーブルテレビが普及化して多チャンネルの時代になりました。
さらに今では、スマートフォンやタブレット端末によるインターネット配信が進んでいます。

メディアの形態は大きく変わり始めています。
このまま市場原理に任せていると、スポーツ中継は有料ネット配信が主流になっていくと予想されます。
例をあげれば、4月9日にさいたまスーパーアリーナで行われるボクシング世界ミドル級王座統一戦、村田諒太対ゲンナジー・ゴロフキンの試合は、会員制サービス「Amazonプライムビデオ」で独占生中継されます。
日本でAmazonがスポーツ中継をするのは初めてのことです。
DAZNだけでなく、ネットメディアが次々とスポーツ中継にに参入してきているのです。

時代の流れといえ、スポーツ界はメディアの変容に無頓着ではいられません。
放送権料が支えるのは財政だけでなく、人気の浮沈を握る重要なカギとなるからです。

サッカーの話に戻るなら、今回の日本代表の活躍を子どもたちは知っているでしょうか。
小学生もスマホを持つ時代ですが、ネットの有料会員となることは考えにくく、テレビでサッカーの試合が放送されていなければ、サッカーに興味を持つ機会は減り、最終的には競技人口の減少につながる恐れがあります。

サッカー日本代表はワールドカップ初出場のフランス大会では、全員がJリーグ所属でした。
しかし、今回のオーストラリア戦では26人中18人が欧州のクラブに在籍しています。

Jリーグでスター選手を見る機会は少なくなり、日本代表の試合もテレビで観戦できないとなれば、サッカーはますます身近な存在ではなくなります。
その結果、有料のネット契約もいとわない熱狂的なファンだけが残り、一般的な「にわかファン」や子どもたちとサッカーとの接点は少なくなっていくに違いありません。

スポーツの「ユニバーサルアクセス権」

欧州では、スポーツを公共財と位置付け、国民が注目する大会や試合は無料放送が義務づけられています。
誰もがもれなくそうしたイベントに接する権利を持つという考えから、「ユニバーサルアクセス権」と呼ばれています。
田嶋会長が求める「法整備」とは、欧州のような制度を想定しているようです。

英国では1996年に放送法が改正され、特定行事を指定して無料放送が義務づけられました。
イベントはカテゴリーAとBに分けられ、Aは無料での生放送を義務づけ、同時に有料放送も可能とし、Bはハイライトやディレイなど無料での二次的放送があれば、有料放送も認められています。

カテゴリーAには、サッカーのワールドカップと女子ワールドカップ(全試合)、欧州選手権(同)、FAカップ決勝の他、五輪、パラリンピック、テニス・ウィンブルドン選手権決勝、ラグビーワールドカップ決勝などが列挙されています。

カテゴリーBでは、サッカーワールドカップ予選、欧州選手権予選、世界陸上選手権、ゴルフの全英オープン、テニス・ウィンブルドン選手権(決勝以外)、ラグビワールドカップ杯(決勝以外)などが指定されています。

この改正の背景には、「世界のメディア王」と呼ばれたルパート・マードック氏率いる企業が、90年代から英国で有料の衛星放送を拡充し、各種スポーツの放送権を次々と獲得した経緯があります。
ドイツやイタリア、スペインなどでも有料のテレビ放送が増え、サッカービジネスは巨大化した反面、一般大衆がサッカーに接する機会は減り、サッカーが「遠い存在」になってしまうという心配が広まりました。

五輪も放送権料が高騰し続ける巨大イベントですが、国際オリンピック委員会は無料放送を各国に求めています。
有料放送のみになってしまうと、貧しい国の人々は五輪に接する機会がなくなり、スポーツを通じて世界に平和運動を広める、という理念が実現できなくなるからです。

日本では、スポーツを公共財と考える意識が薄く、ユニバーサルアクセス権も浸透していませんが、今回の有料放送の問題はスポーツが本当に必要な存在なのかという根本的な問題提起をしています。
スポーツが人々を豊かにしてくれる文化であるのなら、社会の「財産」を守るために、もっと議論を深めていかなければなりません。

参照:nippon.com

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