最近のエンタメ部門では、物理メディアの売上が不調だという話をよく聞きます。
インターネットの普及と回線の高速化、映像技術の進歩や配信サービスの充実が急速に進んだことによるものです。
音楽業界は最たるものですが、ビデオ、DVDやBD(ブルーレイディスク)、有料動画などの映像ソフトでも、状況に大きな変わりはありません。
今回は、2022年5月に日本映像ソフト協会が発表した、「映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査」という、日本の映像ソフト協会そのものやソフト関連の実地調査結果をまとめた報告書の最新版を基にして、日本の「映像ソフト市場」の推移を確認します。
映像ビデオ市場の市場規模は、確認できる経年データ(2005年以降)を見る限り、セル・レンタルともに縮小する傾向でした。
「セル」は物理メディアの販売、「レンタル」は物理メディアの貸出を意味します。
非常に興味深いのは、2008年以降の物理メディアの急落の様子が、音楽CDの売れ行きによく似ていることです。
メディア環境の変質が同時期に、音楽メディアと映像メディア双方に起きたことがわかります。
メディアそのものの変質が、急落の主要因であり、コンテンツの種類はそれほど関係しないということでしょう。
今世紀におけるエンタメ系メディアの大きなターニングポイントは、2007年から2008年とみて問題なさそうです。
コンテンツの質や方向性とは関係なく、鑑賞媒体・ツールなどの周辺環境変化が、大きな影響を市場に与えていることになります。
2013年からは、有料動画配信の市場推計値が追加されていますが、2012年までゼロだったわけではなく調査対象とされていませんでした。
有料動画配信とは、具体的には「定額見放題サービス」「デジタルレンタル」「デジタル購入」などが該当します。
2015年からは、WOWOWやスカパー!のような有料放送局による自社放送番組の再配信、ポータルサイトの有料付随サービス、動画配信サービスの有料プレミアムなども数字にいれるようになりました。
2015年の有料動画配信市場の躍進は、この変更によるところも一部あります。
ただし、2016年以降は変更点がないのにもかかわらず、値は増加しています。
有料動画配信市場が、拡大フェイズにある現実に変わりはないでしょう。
特に2020年以降、有料動画配信市場の成長は著しく、2020年の前年比はプラス65.3%、2021年の前年比はプラス22.4%で、映像ソフト市場の過半数を占めています。
2020年分の報告書ではこの動きについて、「上位サービスプロバイダーが順調に伸張、また、定額見放題の利用増加」が原因と説明していました。
各関連サービスの拡充はもちろん理由の一つですが、新型コロナウイルス流行による巣ごもり需要も、大きく貢献したと思われます。
映像ソフト市場のうち、セルもレンタルも縮小の一途をたどっているのが物理メディア市場です。
その理由の少なからずが、利用者が有料動画配信にシフトしたためと考えられますが、市場全体も縮小している感がありました。
しかし、2014年以降は有料動画配信市場が大きくのび、躍進に転じさせています。
特に注目するべきは、2020年以降、有料動画配信市場が物理メディア市場を超える状態となっていることです。
直近の2021年時点で、有料動画配信市場は4863億円です。
その内訳の「元々レンタルもセルも目に留めていなかった人が利用した、新規の掘り起こし的な需要」と、「セル市場やレンタル市場からのシフト組」の割合は、判断する材料がありません。
もし後者が多かった場合、該当する人数は同じでも、市場に投下される金額はかなり縮小します。
幸い、現状では新たな市場を作っているようです。
有料動画配信は、映像ソフトを楽しむという点で、セルやレンタルよりも利用ハードルが低いと思われます。
金額面での市場規模が、今後どのような変化を見せていくのか、大いに注目したいところです。
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